【あの人は(あれでも)僕らの委員長。】


「久々知兵助!!」

「わぁ!!」と伊助が声を上げ、「どうしたんですか!?」と三郎次が驚き、「こんにちは〜」とタカ丸さんが呑気に挨拶をした。
俺はというと、煙硝倉の入口にあの人が立った時から嫌な予感しかしなかった。

「珍しいですね、委員会に出る気になったんですか?」
「そんなことより!!」
「・・・・・・」

委員会のことを“そんなこと”で片付けてしまうこの人に、一体何時になったら火薬委員会委員長としての自覚が芽生えるのだろうか。
はぁ、と溜息を吐いた俺を無視して、委員長はどんどんと近付いてきて俺の目の前に立った。
俺の予想が正しければ、この人は今碌なことを考えていない。

「兵助くん、君さ、ちょっと女装してとある代官屋敷にいる色ボケ代官を誑かして、ある情報を引き出してきてくんない?」
「・・・いきなり何言い出してるんですか」

誰がそんなこと引き受けると思ってるんだ。

「ん〜、君ならいけると思うんだけどなぁ。顔整ってるし、色気もあるし。きっと綺麗な娘さんになれるよ」
「ふざけないでください」
「・・・それが、結構本気なんだよねぇ」

ニヤリと笑った委員長は、いつの間にか化粧道具と女物の着物を手にしていた。
じりじり近付いてくる委員長から距離を取るため後ろに下がるが、壁が近付き後が無くなってくる。
かといって、委員長の横を擦り抜けていくのも容易ではない。
どうしたものかと思案していると、委員長が伊助、三郎次、タカ丸さんの三人に声を掛けた。

「お前たちも手伝え!!」
「え?」
「お前たちも見てみたいだろう?上級生の女装。いい勉強になるぞ〜」
「・・・」
「それに、髪結いの腕の見せ所でもあるよな〜。なぁ、斉藤」
「頑張りま〜す!!」

あっという間に委員長は、手下・・・いや、仲間を三人手に入れた。
そして、意気揚々と委員長は号令をかけた。

「かかれ〜!!」



結局、委員長の指揮のもと他三人が俺を女装させようと向かってきた為、委員会の続行は不可能となってしまった。
なんとか回避を続けていたら夕食の時間になったので、それを理由に委員会を解散させ、伊助、三郎次、タカ丸さんを帰らせた。

「大丈夫か、兵助」
「誰のせいで、こうなったと思ってるんですか」
「私の所為・・・かな?」

その場に座り込んだ俺に、あはは、と大して悪いと思った様子もなく委員長は笑った。

「・・・行くんですよね?」
「ん?」
「これから、“お使い”なんですよね」

最近、委員長のことで分かったことがある。
嫌いだったり、難しい“お使い”に行く前に、委員会に顔を出す。
“お使い”の内容はおそらく、さっき委員長が言っていた“代官屋敷での情報収集”だろう。

「・・・私が最初に委員長の話を引き受けていたら、委員長は私に行かせたんですか?」
「・・・・・・くっ」
「?」
「・・・くくっ・・・ふっ・・・あはっ、あはははははは」

いきなり、委員長は腹を抱えて眼に涙を浮かべるほどに笑い出した。

「あの・・・」
「ふっ、ふふっ・・・君は、くっ、やっぱり、バカだなぁ」
「な!?」
「あー、可笑しい」

そう言いながら涙を拭う委員長に俺は抗議の視線を送った。

「あぁ、悪い悪い。でも・・・まさかあんなこと言うなんて思ってもなかったから」

行かせるつもりなんて最初からなかったのに、と委員長は呆れたように笑って言った。

「・・・じゃあ、なんで女装させようとしたんですか」
「ただからかっただけだよ。もしくは暇つぶし」

そんなことで俺はあんな目にあったのか。
はぁぁ、と深く溜息を吐いた。

「委員長が、私に“お使い”を押し付けるつもりかと思いました」
「・・・」

いつも委員会の仕事を押し付けるみたいに。
そんなことを思ってると、頭に委員長の手が置かれた。

「自分の演技で人を騙すというのも、存外楽しいものだよ」
「・・・」
「それに、君がいくら優秀でもそう簡単に上級生の“お使い”は完遂できない。そういうのを押し付ける主義は持ち合わせてないよ」
「・・・帰ってきたら」
「ん?」
「無事に帰ってきたら、委員会に顔くらいは、出してください」
「約束は出来ないけれど・・・覚えていたら、ね」

頭の上でフッと笑う委員長の気配がした。


「いや〜、それにしても、斉藤の早結いはすごいなぁ。首から上は完璧な町娘だ」
「・・・え」

見るか?と委員長がこちらに手鏡を差し出した。
それを受け取り鏡を覗くと、綺麗に化粧をして髪を結われた自分の顔があった。

「・・・いつの間に」
「ね。いくら私でも逃げ回る兵助相手にここまで綺麗な髪結いは出来ないよ」
「髪もですが・・・この化粧は」
「あぁ、それは私」

さらりと言う委員長に若干の眩暈を覚えた。
化粧をされた記憶も感覚も全く無かったのに。










2012.6.30 浹
2012.7.29 加筆修正





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