【あの人は(これでも)僕らの委員長。】


「・・・はぁぁ」

明日からのことを考えて、自然と溜め息が出た。
それもこれも、全て学園長先生から言われた“お使い”の所為だ。
“お使い”の内容が書かれた書面をもう一度見る。
当然、書いてあることが変わっているはずもなく、先程見た時と同じ文章が綴られていた。

−ある男に取り入り、情報を引き出せ。−

この“お使い”で禁止されていることは1つ、“暴力の行使”だけ。
それ以外ならばどんな手段を使っても構わないということだが。

「・・・はぁ」

唯でさえ人と関わるのが苦手だというのに。
力尽くという手段があれば、これほど憂鬱にもならなかったのに。
まあ、それが分かっていて学園長先生はこの“お使い”を私に言ったのだろう。

無性にあの子たちに会いたくなって、自室に向かっていた足を飼育小屋へと向けた。


山犬の葭と燦を小屋から連れ出し、近くの木陰に腰掛けた。
燦は気持ちよさそうにあくびをし、葭は遊んでほしいのか身をすり寄せてきた。

「せんぱぁ〜い!!」

戯れ付く葭を撫でていると、一年生の生物委員たちがとてとてとやってきた。
燦が近付いてくる一年生たちに反応して起き上がると、彼らはたじろいで足を止めてしまった。
私が燦の頭を撫でて気を逸らしてやると、再びそろりそろりと傍までやってきた。

「どうしたんだ」
「竹谷先輩から聞いたんです」
「先輩、明日から学園長のお使いに行くって」
「大変なお使いだって聞きました」
「それでその間委員会も来れない、とも」

そういえば、此処に来る途中で会った竹谷に明日からの引き継ぎをしたんだっけか。
もう彼らにも伝わっていることに、少しだけ驚いた。

「先輩の分の仕事も僕達がしっかりやりますから」
「だから、先輩は安心してお使いに専念してください」
「ああ、よろしく頼む」
「燦と葭のことだって任せてください!!」
「・・・ああ。だが、一年生だけでは許可出来ない」
「はい。必ず木下先生か竹谷先輩と一緒にやります」
「それでいい」

随分と一年生たちもこの子たちに慣れてきたな。
そんなことを思っていると、一人が先輩先輩と軽く裾を引っ張ってきた。

「先輩が無事にお使いから帰ってきたら」
「皆でお団子屋さんに行きましょう!!」
「団子、屋?」
「僕たちしんべヱからおいしいお団子屋さんの場所を聞いたんです」
「とってもおいしいってお墨付きですよ」
「そうか」

楽しそうに話す一年生たちに、私はいつものように答えた。
どうして私はこんな時くらいもう少し何か言ってあげたり出来ないのだろうか。

「じゃあ、約束ですよ」
「しんべヱの情報は確かですから、期待しててください」
「ああ」

お使い頑張ってください、と言って一年生たちは忍タマ長屋の方へと駆けていった。

「・・・頑張って早く終わらせて帰ってこないとね」

燦と葭を連れて小屋に戻りながら呟いた。
明日からがたとえ地獄のような日々になろうと、なんだか頑張れるような気がした。










2012.6.24 浹
2012.7.29 加筆修正





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