「母さん、ケーキ貰ってきたよ」
「ありがとう、冷蔵庫入れといて」
冷蔵庫を開けると色々な食材が入っていて、今日の晩御飯はいつもより豪華なんだと分かる。
ケーキの箱を仕舞って、キッチンで料理を作る母さんに声を掛けた。
「今日の晩御飯ってハンバーグ?」
「そうよ」
「・・・ふぅん」
「あれ?嫌だった?」
「ううん、・・・母さんの手作りハンバーグは好きだよ」
そう言うと母さんは嬉しそうに笑った。
「いつまでそう素直に言ってくれるかしらね?」
「・・・ところでさ」
「何?」
「外に出てるコイノボリって何で飾ってるの?」
イタリアの地で一際異色な魚の飾り。
ベランダで風を受けて靡くソレは、周りの家で飾ってるのは見たこと無い。
「今日、ラルディに聞かれた」
「あら?ラルディは知らないのね。父親のディーノは日本の文化結構知ってるのに」
因みにケーキ屋のおっちゃんには、アレは何度見ても面白いと店で言われた。
何が面白いのかは全くわからん。
「鯉幟はね、男の子の出世を願って飾る物なのよ」
「・・・出世、ね」
「そうよ。あんたも立派に育って母さんを楽させなさいよ」
母さんは挽肉を捏ねながら、こちらを見てそう言った。
「・・・そうだね、立派な堅気の社会人になるよ」
「あら、別に母さんは裏の人でも構わないわよ?」
ちゃんと自分で納得がいってればね、と付け足した。
「ならないよ!!オレは平穏が良いの!!」
「・・・そういうとこは誰に似たのかしらね?」
「父親で無い事だけは確かだよ」
「ふふ、確かにね」
そんな話をしていると、外でバイクのエンジン音がした。
「父さん、帰ってきたよ」
「そうね・・・あ、鯉幟片付けておいて」
「分かった」
毎年、いつも帰りの遅い父さんがこの日だけは早く帰ってくる。
そして母さん渾身の料理とケーキで、ささやかに父さんの誕生日を祝う。
ドアの空く音を聞きながら、ベランダへと向かった。
ベランダに飾られたコイノボリも今日でクローゼットの中に仕舞われる。
また来年、コイノボリがベランダに飾られる頃になったら。
オレは今よりもう少しは成長出来ているだろうか。
2012.5.5 浹
2012.7.29 加筆修正
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