しまった、と思った時にはもう手遅れだった。
だんだんと重心が前へと移り、徐々に地面が近くなっていた。
ベシャリ。
効果音を付けるならこれ以上ピッタリなものはないだろう。
走っていた勢いもあって、随分派手に転んだけれど、大した痛みは無かった。
とにかく急がなければいけない私は直ぐに立ち上がるとまた走り出した。
「おはよう」
「あ、おはよう兵助」
「・・・」
「?どしたの」
何か言いたげに兵助はこちらをじっと見ていたが、聞いても何も答えなかった。
そのまま私の問いを無視して、前の席の椅子を引き出して腰掛けた。
そこは兵助の席ではないが、その席の主は今居ないので特に問題ないか。
「・・・」
「ねぇ、ほんとどうしたの?兵助」
座ってからもじっとこちらを見る兵助は、なんだか不機嫌そうな感じがした。
「・・・これ」
「?・・・え、あ!?私の鍵!!えぇ??」
兵助が机の上に出したのは、紛れもなく私の家や自転車などの鍵だった。
あれ?いつの間に無くなってたんだ?
「勘右衛門が拾ったんだ。きっとお前のだろうって」
「あ、そうなんだ。勘ちゃんにお礼言わないと」
そう言うと、兵助の顔はさらに不機嫌そうになった。
なんでそんなにも不機嫌になるのか全く見当も付かない。
「へ、兵助・・・さん?」
「・・・朝」
「・・・朝?」
「転んだんだってな。勘右衛門が見たって」
あぁ、鍵はあの時に落としちゃってたのか。
全然気づかなかったなぁ・・・・・・?
・・・見たって?
「・・・見られてた、の?」
「あぁ。・・・で、その痣作ったのか」
うそだー、とか心ん中で叫んでいると、冷ややかな兵助の声がした。
「あざ?」
「左ひざに。保健室行ってないだろ」
見ると、左ひざが赤くなってて、所々青くなってる部分もあった。
さらに右ひざと比べると少し腫れているようだった。
「うわ〜、見た目痛そ〜」
「自分のことだろ」
はぁ、と兵助が溜息を吐きながら呆れたように言う。
「だって、全然痛くないし」
「とにかく、保健室に行ってちゃんと診てもらえよ」
いいな?と念を押されたので、分かったちゃんと行く、と返事をした。
そこで予鈴が鳴って、兵助が立ち上がった。
「あともう一つ」
「?」
「・・・スパッツくらい、ちゃんと穿いとけよな」
小声でそれだけ言うと、兵助はもう一度、ちゃんと保健室に行けよ、と言って教室を出て行った。
思わず机に突っ伏してしまった。
・・・そういえば、今日の朝は大慌てで支度して家を出たんだっけ。
てか、勘ちゃんに見られたなんて。
授業が始まるまで、あまりの恥ずかしさに顔を上げられなかった。
2012.4.22 浹
2012.7.29 加筆修正
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