「学園で一番モテる忍タマって誰なんだろう?」

そんな誰かのふとした一言から、くノ一教室のお喋りはさらに盛り上がりだした。





女子のお喋り





「やっぱり一番って言ったら、六年い組の立花仙蔵先輩じゃない?」

そう一人が言った。

「立花先輩って成績優秀だし、クールで落ち着きがあって素敵だし」
「絵に描いたような優等生って感じ?」
「そうそう。それでいて茶目っ気もあるってのがまた良いんだよ」
「そんでもって、あのサラストでしょ」

いいよねー、と教室のほとんどのくノたまが口にする。

「私は立花先輩より善法寺伊作先輩の方がモテると思う」

隣に座っていた子がそう言ったので、私はなんでかを聞いてみた。

「だって、立花先輩って見た目良いけど色々めんどくさそうじゃん」
「あ〜、ちょっと納得」
「それに引き替え、善法寺先輩ってすごく優しいし、笑った顔がかわいいし」
「分かる。あの笑顔ってなんか癒されるんだよね」
「それに薬のこととか、よく教えてくれるし」
「教え方が上手だよね。すごく分かりやすいの」

彼女たちが“薬”と言うと、嫌な予感しかしない。
おそらく、きっと、その中には“毒薬”も含まれているのだろう。
・・・いや、絶対、確実に含まれている。

「確かに、優しい善法寺先輩はかなりモテそうね」
「・・・でも、不運委員長だよ?」
「そうなんだけど、でも・・・」
「でも?」
「・・・不運に見舞われてる先輩って、なんだか助けてあげたいっていうか、守ってあげたいっていうか」
「あぁ、母性本能擽られちゃうんだよね」
「先輩なんだけどねぇ〜」

くすくすと笑いながら話す彼女たちの言葉から、彼の人気の高さはなんとなく伝わった。
残念ながら、カッコいい、などの言葉は一切出てこなかったが。

「善法寺先輩が優しい先輩なら、同じは組の食満留三郎先輩は格好良い先輩だよね」
「忍術学園の中じゃ、武闘派で通ってるものね」
「でもでも、委員会中はまた違うのよ」
「え?どう違うの?」
「食満先輩が所属してる用具委員会って一年生が多いじゃない?」
「まぁ、ほかの委員会よりはね」
「で、委員会活動中の先輩を見掛けたんだけど、一年生を引き連れてる姿がなんだか保父さんみたいで・・・」
「なにそれ!?見てみたい!!」
「なんか戦ってるのとは違った感じで良かった」

食満先輩も人気があるようで、同意する子たちがどんどんと出てきた。

「同じ武闘派でも、潮江先輩とは大違い」
「潮江先輩は・・・ねぇ」

苦笑交じりでそう話に上がったのは、六年い組の潮江文次郎先輩だった。

「モテるか、モテないかで言ったら、間違いなく・・・」
「モテない」

教室にいたほとんどのくのタマが即答する。
当の本人がこの話を聞いたら、どんな反応を見せるのか・・・、少しだけ、気になった。

「潮江先輩はデリカシーってものが無いもの」
「似た感じの理由で、七松小平太先輩もモテる感じじゃないよね」
「確かに。七松先輩も潮江先輩も女心が分からなさそうだよね」
「どっちも一人でどんどん先に行っちゃう感じ」
「いけいけどんどーん!!って?」
「そうそう!」

こちらもなかなかひどい言われようだ。
まあ、七松先輩ならそんなこと気にもせず、「いけいけどんどん!!」で終わってしまう気もするが。

「わたしは中在家先輩が格好良いと思ってる」
「え??」

一人のくのタマの発言で、教室がざわつく。

「え?あの、学園一無口な中在家先輩?」
「何考えてるか中々読めない、あの中在家先輩?」

周りのくのタマ達がくどい位に確認をする。

「そう。六年ろ組図書委員会委員長中在家長次先輩」
「どこが?どこが格好良いの?」
「体」
「・・・・・・はい??」
「だから、体。肉体美とでも言えばいい?」
「あ〜〜、・・・つまり?鍛えてる肉体に惹かれたと?」
「まぁ、そんなところかな。なんかそそられるんだよね」
「へ、へぇ〜」
「・・・今度の色の実習、中在家先輩をターゲットにしてみようかしら」

そう言って、妖しく笑みを浮かべた顔はとても、とても楽しそうだった。
・・・この手の笑みに、良い思い出は全く無いが。

「ま、それだけじゃないけど。あの寡黙なところも素敵だと思うし」

今度は本当に楽しそうに、可愛らしく笑って言った。

「じゃあ、図書室によく行ってたのって、中在家先輩が目的?」
「そうなるかな」
「なぁんだ〜。あたしはてっきり不破雷蔵先輩が目当てかと・・・」
「ん〜、わたしの趣味じゃない。確かに優しそうだし、性格も良さそうだからモテそうだけど」
「それは言えてる」
「あと、五年生でモテそうなのって久々知兵助先輩?」

少し脱線しかけていた話が戻ってきた。

「久々知先輩ね〜、顔は良いんだよね」
「そうね、顔は良いわね」

顔しか話に出てこない。

「いまいちどんな人かっていうのが分からないんだよね。個性が薄いというか・・・」
「個性って豆腐小僧?とか?あ、後は睫毛?」

豆腐や睫毛は個性というのだろうか。

「後、五年生は・・・竹谷八左ヱ門先輩?」
「竹谷先輩はそれほどモテる感じじゃないでしょ」

一蹴されてしまった。

「尾浜勘右衛門先輩もいるじゃない」
「・・・尾浜、勘右衛門先輩?」
「うん。前に少し話したことがあるんだけど、ちょっと面白い先輩だったよ」
「ほぅ」
「モテるかモテないかはちょっと微妙だけど・・・」
「ほ〜ぅ。さては、その尾浜先輩におぬし、惚れたな?」
「!?っな、なんでそうなるの!?」
「態々、自分で名前を出したのが怪しい」
「確かに、怪しい〜」
「さらに、慌てて否定するところも余計にあ〜やし〜ぃ」
「だから、それはまだ、尾浜先輩が、出てきてなかったからで!!」
「ふ〜ん?」

また、脱線し始めた。

「そんなことより、あんた!!」
「ん?」
「あんたは、誰がモテそうとか、ないの!?」

追及されていたくのタマが、無理矢理話を逸らそうとして私に話を振ってきた。
皆がこちらを見てきた。
・・・答えない訳にはいかなくなったようだ。

「ん〜・・・、鉢屋三郎先輩とかは?」

とりあえず、まだ出ていなかったから言ってみた。

「は?」
「今、なんて・・・?」

何故か、不思議なものを見るような目で見られた。

「ていうか、あんた趣味悪いよ?」
「え?」
「悪趣味〜」
「なんで?なんで、選りに選って、なんで鉢屋先輩?」
「え?まだ出てなかったし」
「それでも鉢屋先輩を出すってのは・・・」
「あり得ないし」
「うん、ないない」
「鉢屋先輩を良いって言うのは、滝夜叉丸や三木ヱ門が良いってのと同じくらいじゃない?」
「言えてる」

今までで、一番酷い扱いじゃないか?
あの二人と同じくらい、というのが何よりそう思わせた。

「大体、いくら変装が上手いからって、誰も素顔を知らないってのもおかしいじゃん」
「きっと、誰にも見せられないくらい不細工なんじゃない?」
「素顔は男前です、なんて作り話の中でしかあり得ないし」
「そもそも、あの先輩って変人だし」

だよね〜と、ケラケラ笑いながら彼女たちは話していた。
居ない先輩を捕まえて、変人呼ばわりとは。

「滝夜叉丸も三木ヱ門も論外でぇ〜」
「同じ四年なら、まだ喜八郎の方がマシよね」
「でも、何考えてんだか本当わかんないし」
「見た目は良いのにねぇ〜」

いつの間にか話は四年生に移っていた。

「やっぱり、四年生なら断然、タカ丸さんよね」
「普段はちょっとヘラっとしてて、頼りなさそうなんだけど・・・」
「でも、時々すっごい真剣な顔するんだよね」
「髪結いする時とかでしょ?」
「そうそう。その時の表情がなんだか格好良くて、ちょっと大人っぽくて」
「やっぱり、年上なんだなぁって思っちゃうよね」

今度は、ワイワイとこの間転入してきた斉藤タカ丸さんの事で盛り上がりだした。

「ねぇねぇ、は誰が良いとか無いの?」
「うん?私?」

不意に、今まで聞き役に徹していたに話が振られた。

のそういう話って全然聞かないし・・・」
「正直、気になるぅ〜」
「皆言ったんだから、も言いなさいよ?」
「今日こそは、白状させるんだから!!」

すごい気迫でくのタマ達はを問い詰めだした。
傍で見ていても、怖いなぁと思ってしまったほどだった。

「そんなに、聞きたい?」

それでも、は余裕のある表情で逆に聞き返した。
問い詰めていたくのタマ達が、興味津々といった感じで答えを待った。
私も、しっかりと聞耳を立てた。

「・・・秘密」

焦らすだけ焦らして、彼女はそう言った。

「って言うのは、却下」

しかし、の返答を予想していたくのタマがそれを許さなかった。
他のくのタマ達も同じようで彼女に無言の圧力をかけていた。
そんな級友たちを前に、は少し不満げに、しかし仕方ないといった表情で口を開いた。

「・・・じゃあ、一年は組の黒木庄左ヱ門」

随分と予想外の答えだった。
くのタマ達もそうらしく、皆が一様にぽかんとしていた。

「・・・一年生?」

ようやく、一人が口を開いた。

「・・・が思う、モテそうな忍タマが、一年生?」
「は組の、庄左ヱ門?」
「なんで?」
「どうして、その子?」
「分かんないんだけど?」

次々と疑問の言葉をに投げかける。

「だって、将来有望そうじゃない。見た目も、実力も」

クエスチョンマークを浮かべまくる級友たちに彼女はそう言った。
しかし、誰もが皆どこか納得がいかない、といったようだった。
そんな級友たちを見て見ぬふりして、先生に用を頼まれているから、とは席を立った。
そして私の方を見て、行こう、と言った。

「じゃ、ちょっと行ってくる」

そう言いながら教室を出る彼女に続いて、私も廊下に出て歩き出した。



暫く、何も話さずに廊下を歩き続けた。
教室から十分離れたところで、が私の顔を見上げてきた。
何か喋り出すわけでもなく、ただニヤニヤとした表情で此方を見るだけだった。

「私の顔に何か、付いているのか?」
「・・・先輩の顔に何も着いてない時ってあるんですか?」

声の調子をいつも通りに戻して彼女に問えば、揚げ足取りのようなことを聞き返してきた。
彼女の問いは無視して、歩みを進めた。

「それにしても、女子の話はよくコロコロと変わるな」
「そうですか?」
「そうだろ。新しい紅の話をしていたら、利吉さんの話になって、流行りの着物、新しくできた甘味屋、でモテる忍タマ。変わりすぎだろ」
「あ、そだ。鉢屋先輩、ご存知ですか?五年生の忍タマで一番モテるのって竹谷先輩なんですよ」
「・・・。さっきの話じゃ、そんな感じじゃ無かったが?」
「竹谷先輩が好きな子たちは皆秘密にしたがるんです。変人の先輩とは大違いにモテモテですよ」
「・・・・・・変人、ね」

そう呟くと、彼女は本当に、本当に可笑しそうにクスクスと笑いだした。
そして、笑いを堪えつつ、気にしてるんですか?と言う。

「当然だ。変人などと言われたことは無いからな」
「でも、変装名人も略せば“変人”ですよ?」
「今日は珍しく、しょうもないことを言うんだな」

呆れたように言えば、そんなことないですよ、とは返す。
しかし、私には彼女が普段とどこか違うような、そんな気がした。

「・・・なんか、良いことあったのか?」
「え?なんでですか?」
「ん、いや、なんとなく機嫌が良さそうだから」

すると、彼女は口元に右手を運ぶと、何か考えるような表情をした。

「実はですね、思ってたことがあったんです」
「・・・思ってたこと?」
「はい」

そこで彼女は頬を赤く染め、此方を見てきた。

「今日は先輩に会いたいなって。会って話が出来ればなぁって」

不覚にも、ドキリとした。
彼女がそんなことを言うとは予想もしていなくて。

「・・・ドキってしました?」

先ほどまでの可愛らしい表情が一瞬で消え、悪戯成功とでも言わんばかりの笑みに変わった。

「そのくらいじゃ、私は動じたりしないさ」

彼女の思い通りになったとは思われたくなくて、平静を装ってみた。

「え〜〜、本当ですか?」

変装しているお蔭か、私の嘘は辛うじて彼女に通じた。
当の本人は、今日は上手くいったと思ったのに、とかぶつぶつと呟いている。

「私を動揺させて、お前は何がしたいんだ?」
「・・・何がしたいって訳じゃないですけど。強いて言うなら」
「言うなら?」
「先輩が好きだからですよ」

本日2度目だが、不覚にも、ドキリとした。
本気なのか、冗談なのか・・・まあ、確実に冗談だろうが。
少しでも本気かと思ったせいで、顔はきっと赤くなっているんだろう。

「鉢屋先輩が自分で自分の事言わなきゃ、私が出してあげようと思ってたんですが」

それは惜しいことをしたなぁ、とぼんやり考えた。

「・・・ところで先輩?」
「へ?」
「くノ一教室にはちゃんと許可を取って入ってるんですよね?」
「・・・・・・」

本当に、女子の話はコロコロと変わる。

「そりゃあ、もちろん・・・」
「!!まさか、無許可で」

にやりと笑いながら言えば、が信じられないといった顔で此方を見てきた。

「許可を貰ったさ。・・・後が恐ろしいからな」





それは信じられないほどよく変わる





「・・・三郎先輩」
「!!?」
「さっきの、返事というか返答みたいなのは無いんですか?」

・・・本気だったのか。










2012.1.24 浹





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