―ちゃんと言わなきゃ、分かってもらえないよ―

そう言っていた友達の言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。





ほんとうのきもち





今更そんなことを言われなくても、十二分に分かっているつもりだ。
きちんと言葉にして相手に言わなければ、何一つ誰かに伝わることは無い、ということくらい。

「・・・はぁ」

別に相手に自分の気持ちを知ってほしいとか分かってほしいとかっていうのは全然なくて。
寧ろ、今のまま、現状維持に徹していたいのに。
それでも、何とも言い表せないもやもやとした感情があって、それをなんとかしたくて。

「・・・はぁ」
「これでもう、10回目だね」

不意にからかう様な声が降ってきた。
上を向けば、くノ一教室の敷地を囲う塀から顔を出す勘ちゃんが居た。

「か、勘ちゃん!?」
「そんなに溜息吐いてると、幸せが寄ってこないぞ」
「なんで・・・此処に?」
が柄にもなく悩んでると聞いて」

そう言って勘ちゃんは、いつものようにニッと笑う。
それを見て私は、やっぱり今のままがいいと改めて思う。
今のまま、勘ちゃんが私を見て、笑ってくれる、そんな今を失いたくないと。

・・・もやもやとした感情が、また大きくなった気がした。

「悩み事があるなら話してみなよ。ひょっとしたら力になれるかもよ?」
「別に、悩み事なんて大層なものじゃないから」
「じゃあ、あの溜息は?」

ほら話して、と言わんばかりの表情の勘ちゃん。
今までの経験上、これは言うまで引き下がらないなぁと確信した。

「別に大したことじゃないんだよ」
「うん」
「今のままがいいって思ってるのに、なんだかもやもやするの」
「・・・」
「今が充分幸せなのに、それ以上を望んだら・・・それこそ、幸せが逃げちゃうでしょ?」
「・・・」
「ね?大したことじゃ、ないでしょ?」

笑いながら勘ちゃんの方を見上げると、ちょうど塀から此方側に飛び降りる勘ちゃんが居た。

「ちょっ・・・此処くノ一教室のしき」
「それが、の本音なの?」
「・・・え?」
「本当に、今のままでいいって、本気で思ってるの?」
「え・・・と」

肩を掴まれて、じっと目を見詰められる。
勘ちゃんは滅多に見せないすごく真剣な顔をしていた。
居心地が悪くて目を逸らしたいのに、どうしても逸らすことが出来なかった。

「どうなの?」

勘ちゃんの低い声が頭に響く。

今のままがいい、それは本当だ。
今の状態がとても大切でそれを壊したくない、それが本心だ。
これ以上欲張ったりしたら、きっと全部失くしてしまうんだ。
よくある物語みたいに。
それだったら、このまま、何も変わらない方が・・・。

はさ」
「?」
「もっと・・・もっと欲張ったっていいんだよ?」

優しく勘ちゃんが笑いかける。
私は、そういう勘ちゃんの笑ってる顔が好きなんだ。

「かんちゃんがすき」

気付いた時には、もう思ってたことを言った後だった。

「・・・ち、ちが」
「違うの?」
・・・ちがくないです

何やら楽しそうに顔を覗き込んでくる勘ちゃんに、俯いてそう言うのが精一杯だった。
すごく恥ずかしくて、もう顔なんて一生あげられないと思ってしまうくらいだった。

「ねぇ、

勘ちゃんが私を呼ぶと同時に、急に引っ張られてそのまま体当たりするように勘ちゃんの胸にぶつかった。

「ずっと、待ってたんだ」
「っ!!」

肩にあった勘ちゃんの手が背中に触れる。

がそう言ってくれるのを、随分前から待ってたんだよ」
「・・・え、と」

耳元で勘ちゃんの声がする。
勘ちゃんの腕に力が入るのが伝わる。

「もう一度言ってよ、










2013.3.31 浹





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