何の予定もない休日。
無駄に綺麗な青空が広がっているのを見て、溜息を一つ吐いた。
置いてきぼり
くのタマ長屋の縁側に腰かけてぼんやりと空を眺めていると、勘右衛門がこちらに向かって歩いてくるのが視界に入った。
私がそちらに顔を向けると、いつもの笑顔をみせて手を振りだした。
・・・一応ここ、男子禁制のはずなんだけどなぁ。
勘右衛門はさも当然のように、極々自然に私の隣に腰かけた。
「何で勘右衛門がここにいるの?」
「恋仲の相手に会いに来るのに何か理由って必要?」
「・・・いや、そうじゃなくて」
何でこうも堂々と、くのタマ長屋の周りを歩いているのかを私は聞きたかったのに。
これが他の五年生ならば、上手い下手は別にして、もう少しこそこそと入り込んでくる。
しかし、勘右衛門にはそういうのが全く見られない。
今までも、くのタマ長屋に来たことはあったが、いつも此方が呆れてしまうほど普通に入ってくる。
おそらく、本人は忍タマ長屋と変わらない感覚でいるのではないだろうか。
「ここはくのタマ長屋なんだよ、勘右衛門」
「知ってるよ」
「男子禁制なんだから、見つかったら先生に突き出されちゃうよ?」
「は俺を先生に突き出すのか?」
「それは、・・・しないけど」
「じゃあ大丈夫」
何が大丈夫なのか全くわからないが、勘右衛門はにこにこと笑いながらそう言った。
「それにしても珍しいね」
「え?」
「が一人でいるなんてさ。いつも一緒の友達は?」
「・・・」
今、私が一番聞かれたくないことを聞かれてしまった。
胸のあたりがもやもやして、重くなる。
「・・・市が立つ日だから、町に、行った」
「?」
「・・・った」
もやもやが、どんどんと広がっていく。
「・・・誘われ、なかった」
吐き出すように言えば、勘右衛門は何も言わずに静かに立ち上がった。
呆れたのか、若しくはうんざりしたしたのだろうか。
どちらにせよ、単に誘われなかっただけでいじける奴なんて面倒以外の何者でもない。
せっかく勘右衛門が会いに来てくれたのに、私は何をやってるんだろう。
「よし!!、町に行こう」
「へ?」
急な提案に頭がついていけなかった。
「俺が外出届をもらってくるから、その間には支度をする。で、正門で待ち合わせ」
「ちょ、勘右衛門?」
「きっと気を利かせたんだよ」
私が状況を呑み込めないでいると、勘右衛門は振り向いてそう言った。
「が俺との時間をあまり作らないから、休みの日ぐらいは二人で居られるようにって」
「なんでそんなこと言えるの?」
「勘、かな?」
「・・・勘って。大体、私ってそんなに勘右衛門との時間作ってない?」
「全然足りてないよ、俺は」
もっと必要だと、真っ直ぐこちらを見て勘右衛門は言った。
なんとなく顔が見れなくて、目を逸らしてしまった。
「そもそも、その勘って物凄くポジティブ思考じゃない」
「ダメだよ」
「何が?」
「それ以外の可能性は考えちゃダメだから」
「・・・」
「じゃ、正門で待ってるから」
そう言うと、勘右衛門はあっという間に走って行ってしまった。
空を見上げれば、先程と同じ無駄に綺麗な青空が広がっている。
天気も良いし、せっかく町に行くんだから、目一杯おめかしをしよう。
それで、勘右衛門を驚かせてやろう。
そんなことを考えながら、私は立ち上がり自室へと戻った。
胸のもやもやは、もうすっかり消えていた。
2012.1.24 浹
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