「おはよう」
「・・・おはよ」
学校への曲がり角を曲がると、そこに余君がいて少しびっくりした。
余君はいつもと変わらない、ふわふわした可愛い笑顔をみせた。
そして私が余君と会うとドキドキするのも、いつもと変わらなかった。
「どうしたの?この道って余君は通らないよね?」
「うん、今日は渡したいものがあったからね」
「渡したいもの?」
はい、と渡されたのは、ガラス瓶に入れられたいろんな色のキャンディーだった。
小粒のキャンディーが太陽に照らされてキラキラしていて、なんだか宝石みたいだ。
「・・・キレイ」
「喜んでもらえたかな?」
「うん!ありがとう!!すっごい嬉しいよ」
「よかったぁ」
ふふ、と笑う余君は何度見てもやっぱり可愛くて、きっと天使がいたらこんな風に笑うんだと思う。
むしろ余君が天使なんじゃないかと思ってしまう。
「本当はね、三倍にして返したかったんだ」
「三倍?」
「ホワイトデーのお返しは三倍ってよく言うでしょ?」
「まぁ、そういうのもあるね」
でも、私たちみたいなお年頃のお小遣いでは“三倍返し”なんて中々出来ない。
私がバレンタインで友だちとかにあげたクッキーの材料費だって、お小遣い一か月分丸々使ってしまったし。
「でもね、そんなことしたら相手の子が吃驚しちゃうよって続兄さんが言ってね」
「それは余君のお兄さんのアドバイスが正しいね」
「うーん、やっぱりそうなんだ」
「そうだよ、もっと大人な人がするんだと思うよ?」
そう、私たちよりももっと大人で、なんか、こう、働くお兄さんとかお姉さんみたいな人がするんだ。
そんなことをぼんやりと考えていた私は、ねぇねぇという余君の声に引き戻された。
「もしも僕が大人になって、またバレンタインにプレゼントを貰えたら・・・」
「?」
「・・・その時は、三倍にしてお返ししてもいいよね?」
くりくりっとした大きな黒い瞳が、私をじっと見ていた。
余君と目が合って、ものすごくドキドキして、頭の中が真っ白になった。
「お、大人になったら、いいんじゃ、ないかな、しても」
「ふふ、じゃあ大人になったら、ね」
そろそろ学校行かないと遅刻しちゃうね、と余君が言った。
確かにそろそろ急がないと学校が始まってしまう。
行こう、と言って歩き出す余君につられて私も歩き出した。
さっきの笑顔はいつもと少し、違っていた気がする。
いつもは可愛いと思うのに、さっきのは可愛いとは思えなかった。
いつもと変わらない笑顔だったけれど、ものすごくかっこよかったんだ。
創竜伝 余からお返し
2012.3.14 浹
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