「はい、これ」
バレンタインのお返しだよ、と渡されたのは可愛いラッピングをされた小さな箱。
「開けていい?」
「うん、開けてみて」
箱の中には、口紅が一本入っていた。
フタを取って中身を出すと、鴇色、桜色、桃色、紅色、緋色の五色が混じりマーブル模様になっていた。
今まで見掛けたことのない口紅だから、どこかの新商品だろうか。
「これってさ」
「今度、うちで販売を始める新シリーズの一つなんだけどね」
「あぁ、やっぱり」
「絶対にこの色、似合うと思うんだ」
椎はにっこりと笑ってそう言った。
「そう。ありがと、椎」
「いえいえ、どういたしまして」
「で、これを付けて明日から宣伝すればいいのかしら?」
そう私が言うと、椎は少し驚いたような顔をした。
「別にそこまでは考えてなかったよ」
「そうなの?」
「うん。単純に似合うと思ったからこれをプレゼントしたんだよ」
「そうだったの・・・。ごめんなさい」
「あ、でも・・・」
少し考えるような仕草を見せてから椎は言葉を続けた。
「その口紅のことを聞かれたら、『ひよこやで売ってる』って言ってくれたらうれしいかも」
そう笑いながら言った椎の顔は、立派な策士の顔になっていた。
異界繁盛記 ひよこや商店 椎からお返し
2012.3.14 浹
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